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 柴田院長は、地域の医療提供体制について、次のように語る。「この地域は、クリニックは点在しているが大病院が少なく、そこで働く医師数も多いわけではありません。そこで、外来から入院、手術、救急医療などをこなすとなると疲弊していくことは明らかです。そうしたなかで、現在、同院の他に、内科、小児科、脳外科、婦人科のクリニックが入るこのクリニックモールが地域医療の拠点とならなければ「できれば地元に戻ってきてほしい」という想いがあったことはどことなく感じていたという。また、幼少の頃からお世話になっていた近所の人々からは、実家に帰る度に「いずれはここに戻ってくるよね」などの声をかけられていた。 そんな矢先に東日本大震災という不幸な天災が地域を襲うことになる。この時、初めて柴田院長は、これからの医師としての生活を考えたという。「これからは、私を育ててくれた地元への恩返しのために医療を提供するのもよいのではないか」と。そして、大震災から7か月後、開業医としての生活がスタートした。 外科医の多くは、開業すると手術ができなくことに大きな葛藤を覚えると聞く。柴田院長はどうだったのだろうか。「もちろん多少の迷いはありました。しかし、それ以上に、地元に貢献したいという想いの方が強かったです。メスをおく、おかないというのはとても些細なこと。それよりも、少しでも多くの地域の方々の安心生活を支えるほうが大切だと思うようになりました」。 とはいえ、同院では小手術に対応しているので、まったくメスを使っていないというわけではない。また、難しい手術が必要な患者がいた場合は、紹介先の病院に行き、手術を病院医師と一緒に行うこともあるという。23第2章●地域対話型の診療所事例21 クリニックモールを地域医療の拠点にしたい

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