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しかし、その紛争は、租税法の適正な解釈・適用のあり方を両者が真摯に探究することにより回避されるはずである。国家も納税者も租税法律主義を尊重することにより、両者の紛争は予防できるのである。本書の「紛争予防」とは、調査官による修正申告の勧奨に安易に応じることを意味するのではない。修正申告の勧奨に安易に応じれば、結果として依頼者である納税者から損害賠償の請求を求められかねない。租税正義の理念を忘れた安易な妥協は納税者との紛争を誘発する。本書における紛争予防は、確固たるリーガルマインドに立脚した法的判断を常に導出することによる「租税正義」を根底にした紛争予防である。本書の書名を『紛争予防税法学』とした所以は、税理士がクライアントの信頼を勝ち得る不可欠な要素は、紛争の予防にあり、それが税理士の職務と責任の中核となり、税理士事務所の発展の要諦と考えたからである。複雑な経済取引を対象とする租税法の解釈・適用には困難さを伴う。その困難さゆえに「紛争」を誘発しやすい。ここで紛争とは、税務調査に象徴される課税庁との見解の相違によって生じる課税庁との紛争と、クライアントに対する税理士の職務と責任をめぐる紛争をも含む。税務調査における課税庁との紛争は、租税法の解釈・適用の適正性が争点とされるのであるから、適正な租税法の解釈・適用とは何かを事前にしっかり学び、的確な処方箋を構築することがまさに紛争予防に直結する。課税庁の見解に迎合することを意味しない紛争予防は、同時にクライアントからの批判も回避できる。権力におもねることなく、「租税正義の実現」という租税法の目的のとおりに租税法を解釈・適用し、その結果として、クライアントの信頼と幸福を獲得していくことこそが、税理士の使命といえよう。ii

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