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す。それから10年が経って、平成21年12月に金融円滑化法が登場しました。その間も、中小企業に安定資金を投入しようという動きが続き、「経常単名貸出」や「当座貸越」の復活の議論もありました。また、行政サイドとしても、中小企業に対して、補助金・助成金や、政府系金融機関・保証協会保証の更なる支援を行いましたが、目に見える効果は出ないまま、倒産件数もそれほど減りませんでした。しかし、金融円滑化法は、前述のとおり、大きな効果がありました。施行後の5年間に、結果的には40万社もの企業に、昔の「経常単名貸出」や「当座貸越」と同様な安定資金の投入が金融機関から実行されました。もちろん個々の企業としては、返済猶予を安定資金と思ってはいないし、何とか、正常な返済を行おうと気を病んでいるかもしれませんが、返済なしの借入れを金利も上げられることもなく、まるで自己資金・出資金のように、金融機関から提供されていることも現実です。この壮大なる実験によって、現実に、当面の中小企業の資金繰りは一息をついて、その倒産件数も大きく減少しているのです。一方、このような安定資金を受け入れる中小企業にも、「情報開示」と言う責任は発生します。金融円滑化法による返済猶予の条件であった「自社の経営改善計画の金融機関への提出」は、中小企業の責任ということです。上場会社は、一般の投資家から出資と言う安定資金の投入を受ける時は、有価証券報告書・企業説明書に事業計画書と言う情報開示資料を必ず作成し公表します。安定資金調達と情報開示は、表裏一体の関係にあります。中小企業であれば、この責任は回避されるということはありません。まして、返済猶予を受ける時に、経営改善計画の提出と言う情報開示の約束を金融機関と交わしているのです。5年間もの間、返済猶予のメリットを受け続けているにもかかわらず、多くの企業が経営改善計画を提出していないことは、外国から見れば、異常事態としか見えないかもしれません。バーゼル銀行監督委員会やIMF(国際通貨基金)がこのことを問題にする前に、中小企業は金融機関に情報開示資料の提出だけでも急ぐ必要があります。返済猶予先に正常返済を付与することに先駆けても、この情報開示は早急に行うことが大切です。ということは、中小企業が金融機関に情報開示を行う態勢を早急に整備しなければならないということです。企業自身が独力でできないならば、顧問の税理士や公認会計士また認定支援機関に支援を依頼することがポイントになります。一方、依頼をされた税理士・公認会計士や認定支援機関などは、金融機関に通用する決算書や経営計画という情報開示資料の知識を前もって身に付けておく必要があります。税理士は税務署に対する情報開示資料である確定申告の知識を習得しており、公認会計士は監査報告と言う情報開示の知識は既に持っていますが、中小企業が金融機関から安定資金を導入する時の情報開示資料策定の知識は身に付けているとは言えず、早急に習得しておかなければなりません。したがって、中小企業と税理士・公認会計士・認定支援機関などは、金融機関と一層の情報交換を行って、その安定資金を投入する金融機関の求める情報開示の内容を学ばなければならないと思います。同時に、金融機関としても、安定資金の提供を続けるためには、どのような情報を中小企業に求めるのかを明確に示さなければなりません。今後、中小企業と税理士・公認会計士・認定支援機関などの支援者また金融機関の間の相互の連携は、一層重要になってきます。とは言うものの、多くの中小企業は複数の金融機関から借入れをしていますので、このこ

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