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今から考えれば、平成21年12月に施行された金融円滑化法は、中小企業金融にとって、壮大な実験であったと思われます。原油価格の値上げ、リーマンショックと続く、中小企業へのアゲンストの風の下、それぞれの企業の手元資金は枯渇し、窮地に追い込まれていました。そんな折りに金融庁から、金融機関向けの監督指針が公表され「全ての金融機関は、経営改善計画を1年以内に出すならば、原則として、返済猶予を許容して支援を行う」という動きになったのです。この法律は、1年間の時限立法でしたが、景気が回復せず、何年間か延長されました。そして、平成23年3月11日には東日本大震災が起こり、中小企業は更に資金繰りに苦しめられることとなりましたが、このときも、金融円滑化法は中小企業の救済に大いに貢献をしました。このように金融円滑化法によって、中小企業が金融機関から返済猶予などの恩恵を受け、平成25年3月の同法の失効時には40万社もの中小企業が返済猶予・条件緩和先になりました。倒産件数も大きく抑えられ、多くの中小企業は平穏な時を過ごすことができました。この返済猶予は、金融機関の貸出担当者にとっても、従来、一般的に行われていた「折り返し融資・復元融資」(数か月から数年の間に返済した金額を、再度、貸出す)の手間を省き、貸出業務に割かれる時間を削減できることになるため、忙しい金融機関の貸出現場にも受け入れやすいものでした。今までの中小企業支援策は、どうしても全ての中小企業にまでは行き渡らず、その支援策を知る企業と知らない企業でバラツキがありました。しかし、この法律による返済猶予はマスコミも行政も広告宣伝活動を強力に行いましたから、ほぼ全企業に情報が行き渡り、企業経営者の情報量の多寡や企業規模の大小にかかわらず、一律に全ての中小企業を対象に実施されることになりました。中小企業施策の中でも、特に小企業に対する施策はかなりのメニューが揃っており、その利用と言う点では個々の企業によって差がありましたが、この法律はほぼ全社に対して利用機会が与えられました。現在の返済猶予中の約40万社の企業はその大半が小企業であり、実際に、その小企業の多くが救われました。このことは、中小企業金融に関し、中小企業と金融機関の間に、大きな変化をもたらしました。中小企業は、金融機関に対して説明や手続きに割かれる時間を、販路拡大や商品開発、また技術開発に注力することができました。金融機関は返済督促をしては、また同額を新規に貸出すという、単純ですが時間がかかる事務処理がなくなりました。バブル崩壊前の中小企業は、「経常単名貸出」や「当座貸越」という、ある時払いの催促なしの借入れがありました。これらの安定資金融資は、もともと自己資本比率の低い日本の中小企業の資金繰りを支えていましたが、平成11年に金融検査マニュアルが金融機関のバイブルとして登場すると多くの中小企業融資のメニューから姿を消しました。金融機関も、中小企業が金融検査マニュアルで、要管理先や破綻懸念先などの不良債権先に評価されると、ほとんど画一的・機械的にこのような貸出の返済を迫りました。このことが、「貸し剥がし」の一つの現象でもあったのでおわりに

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