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Ⅰ 鈴木瓦製造株式会社5沿い、計上可能なキャッシュフローの中で元金返済を再開するときは、かつての返済元金より少なくなることが多い。この場合に少なくなった返済可能元金を複数の金融機関へどのように配分することが衡平性を帰すことになるのだろうか。プロラタ(均等按分)返済の具体的方法は幾つかあり、具体的に金融機関各行の調整を図る局面でどの方式を採用するかで調整に手間取ることがあるので、その違いを認識する必要がある。(1)残高プロラタ方式 融資残高にどのような債権保全(預金担保・保証協会付・不動産担保等)がなされているかに関係なく各行の融資残高に按分して返済額を決める方法(2)信用残プロラタ方式 融資残高から債権保全されている額を控除した残高に対して按分して返済額を決める方法。つまり非保全額に対して返済額を按分する。(3)折衷案 まれなケースだが、メインバンクが100%担保で保全され、他行は無担保であるような場合に残高プロラタ方式を採用するとメインバンクと他行との間で著しく衡平性を欠くことになる。このような場合は、残高プロラタと信用残プロラタの折衷案を採用することがあり、極めて合理的といえる。 一口にプロラタ返済といっても以上のように幾つかの方法がある。債権放棄額やDDS、DESなどの金融支援額を算定する場合の基準は信用残高であるから信用残プロラタ方式が一般的であり、一方、企業再生を目的とした返済猶予後の返済額の算定の場合には、債務不履行になることを前提とした発想ではなく、再生を念頭に置くことから残高プロラタ方式が基準となろう。企業再生がスタートした当時の「私的整理ガイドライン」は信用残プロラタを原則としたが、この場合は多くが債権放棄を含んだスキームであり信用残プロラタ方式の採用に納得性がある。これらの方式を理解した上で経営改善計画書に元金返済再開後の取引金融機関ごとの返済割合を記載し、全行の合意を得なければならない。しかし、実際には、個別金融機関は「少しでも自行に有利になる返済金額」を主張し合い、なかなかスムーズに展開しないこともある。 例えば、本事例の場合では、信用残の割合は、融資残高が一番大きいA銀行の割合が51%、C銀行15%、D信用金庫25%、H銀行9%となり、B銀行とE銀行は完全保全の状態にありその差は歴然としている。与信状況の異なる金融機関同士の合意へ向けた金融調整は難しいことが読み取れる。しかし、本件の場合は、「経営改善計画書」で財務D/D、事業D/D、を踏まえて事業の継続可能性が十分なことを説明し、取引金融機関が計画の蓋然性を評価したのであるから残高プロラタ方式を採用するのが常識的といえる。

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