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好んでいた。好きな花に囲まれ、健太郎の体はフワフワと宙に浮くように軽かった。クレオメの花畑を抜けると、やがて、せせらぎの音が聞こえ、その川の向こう岸に、真っ白い割烹着を着た老婆が佇み洗濯をしていた。近づいて声をかけようとしたその時、あまりの驚きに健太郎の心臓は高鳴った。懐かしさと恋しさが込み上げてきて、健太郎の視界は涙で霞んだ。ない。「母さん……母さんだね」「母さん……会いたかったよお」「母さん……三十年以上も離ればなれだったんだ」健太郎が話しかけようと、顔を上げると、いまそこにいた母の姿が見え     2

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