職業会計人の使命と責任

 飯塚 毅 著
(目次)

第1章 職業会計人の独立性と責任
 職業会計人の独立性について
 再び、職業会計人の独立性について
 三たび、職業会計人の独立性について
 租税正義
 租税正義は誰が守るのか
 TKC会計人の基礎条件

第2章 職業会計人の使命と巡回監査
 格差の類型(1)
 格差の類型(2)
 税理士業の二律背反性
 巡回監査の発想
 なぜ事務所が発展しないか(1)
 なぜ事務所が発展しないか(2)
 消えゆく会計事務所と生き残る事務所と
 巡回監査実施必然の論理
 あなたは、ホントに職業会計人だ、といえるか
 電算機会計の法による規制の問題
 電算機会計とわが国の税理士法
 巡回監査をやらない者は、日本の会計人ではない
 背筋が凍る危機経験と職員教育
 なぜ巡回監査は絶対必要なのか

第3章 職業会計人の職域防衛と運命打開
 激流にさかのぼる
 発展事務所と没落事務所
 申告書への添付提出を求める「データ処理実績証明書」
 書面添付推進体制構築を阻むものは何か
 会計人よ、進路の予見を誤るな
 なぜ書類範囲証明書の添付が必要なのか
 書面添付推進体制構築上の諸問題
 会計事務所40年
 一流会計人の証とTKC
 TKC会計人は今、企業経営者の期待に如何に応えるべきか
 TKC会計人への警鐘
 イメージ形成が決め手だ
 世界の第1級の会計事務所を目指す
 衆議院予算委員会での意見陳述など

第4章 職業会計人の心と洞察力
 職員は利己心の道具に非ず
 会計人と宗教(1)
 会計人と宗教(2)
 職業会計人とエゴ
 人間の生きざまについて-なぜ発展しないのか、その原因は何か
 再び人間の生きざまについて
 事務所発展の秘訣
 勝ち抜く者の条件、瞑想鍛錬
 会計人の生き方の根本問題
 一隅を照らすこれ国宝なり
 誤解と錯覚を排した人生を
 瞑想の実践
 新春の誓いを祈る

参考資料
 21世紀に向けての政策課題
 TKC創設の思考過程と企業理念
 ドイツから見た日本の税制と商法
 国家安泰は健全なる納税制度に


(はじめに)

 序にかえて
 ドイツ税理士法第57条第2項には、次のような条文が書かれている。「税理士及び税務代理士は、その職業、あるいはその職業の外観と一致しないようないかなる活動もしてはならない。」と。
 貴方はこれを読んだときに、どう考えるだろうか。
 「ドイツの税理士法はやけに厳しいな。日本の税理士法には、こういう禁止規定はない。とすると、日本ではやっても良い、ということかな。」と。貴方は此処でちょっと迷われる筈である。この迷うということが大切なのである。実は、貴方はTKCに入られて、日本の一流の職業会計人として活動して行こうとするときに、日本の法律、特に職業関係の法律が一種の「法律の不足状態」にある、ということに気がつかれる筈なのである。その通りなんです。日本は文明国の一つとして、法治国だといわれています。法治国の刑法には、罪 刑法定主義が支配しています。従って、類推禁止の原則が働いております。同様に税法の領域では租税法律主義が支配しているので、刑法において類推禁止の原則が働くのと同じように、税法においても類推禁止の原則が働くのです。それは刑法も税法も、共に、行為主体の自由意志に反して、国家意思を発動し得るという法律制度が措定された、当然の帰結として存在するからです。税理士法には、他の行政法と同様に、類推禁止の原則は働きません。TKC入会を契機としてこれから大発展の道を辿ろうとしている職業会計人は、この点をしっかりと把握して、誤り無きを期して頂きたいと念願します。
 税理士法第45条には、「真正の事実」という文言が出てきます。そこには、税理士は、常に「真正の事実」に基づいてその業務を遂行すべきである、という定言的命題が隠されております。そんなことは当たり前だから書かないのだ、というかも知れません。私は、そういう当たり前なことを、当たり前のこととして、できる限り、法の定言的命題として、書くべきだと考えます。それが法律条文を読む者に対する立法者の親切というものだろう、と考えるからです。
 この選集は、TKC会報の巻頭言の中から、新規に入会してこられた職業会計人の参考として、お読み頂きたいと考えたものを集めたものです。そこにはTKC会員会計人に対する私の祈りが込められております。また、職業会計人としての私の実践を偽り無く書き込んでおります。人生がただ一度しか無いもの、と思いましたので、その感懐を込めて綴ったものです。この選集が職業会計人の生活を、祈りと共に送ろうとしている方々に捧げられたものと理解してくだされば幸いです。

平成7年3月吉日
飯塚 毅

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