第1章 時代を観る眼4います。はたして、このような社会は正常な社会といえるのでしょうか。たとえ勝ち組であっても、「自分の努力で勝てたのであって、負け組は努力が足りないからだ」と負け組を糾弾する権利はあるのでしょうか。国民の大半が将来への希望を見いだせず刹那的な生き方をしていたら確実に社会の活力は低下し、社会は崩壊に至るでしょう。現代の経済社会において、企業が社会に及ぼす影響は広範かつ重大なものがあり、その企業のあり方、行動によって、社会へ良き影響を及ぼすかどうかが決定されてしまいます。そしてこの企業を設立し、組織し、経営していくのは経営者ですので、この経営者の生き方や考え方そのものが問われている時代だともいえるのです。たとえ小さい組織であっても、他人を採用した以上、その人を通じて社会に対する責任が発生します。人間は誰もが幸福になる権利があり、経営者はその人を幸せに導く責務があるのです。幸福は経済的側面だけで実現できるとは限りません。しかし、赤字が続いているようであれば、社員は定期的な昇給も期待できないでしょう。また、昇格も期待できません。すなわち、赤字企業は、社員が享受すべき最低限の幸福を分かち合うことすらできにくい環境にあるのです。ところが、現在、日本の中小企業の実に60%以上は赤字です。病んでいる、としかいいようがありません。社会の発展と人類の幸福のために設立されたシステムである企業の中で、その役割を果たせなくなっている数が増えているのです。経営の神様といわれた松下幸之助氏は、「赤字は罪悪」だと言っています。企業は社会の公器であり、社会から人と金を預かって経営をしているわけですので、それ以上を社会にお返ししなければならないからです。
元のページ ../index.html#16